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東京地方裁判所 昭和57年(ワ)10255号 判決 1984年11月13日

原告 赤﨑秀和

右訴訟代理人弁護士 飯田義則

被告 住友海上火災保険株式会社

右代表者代表取締役 徳増須磨夫

右訴訟代理人弁護士 伊達利知

同 溝呂木商太郎

同 伊達昭

同 澤田三知夫

同 奥山剛

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、金二〇〇〇万円及びこれに対する昭和五七年五月九日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

原告は、次の交通事故(以下「本件事故」という。)によって傷害を受けた。

(一) 日時 昭和五五年七月二一日午後七時二五分ころ

(二) 場所 千葉県八千代市勝田台一丁目三〇番地付近路上(以下「本件事故現場」という。)

(三) 現場の状況

(1) アスファルト舗装道路

(2) 制限速度 三〇キロメートル

(3) 市街地

(4) 駐車禁止地域

(四) 事故の態様 訴外恒成博久(以下「恒成」という。)がその運転する自動二輪車(千葉み一五一六号、以下「恒成車」という。)の後部座席に原告を同乗させて右道路を八千代市村上方面から同市勝田台二丁目方面へ向かって走行中、訴外東谷和子(旧姓「右島」。以下「右島」という。)がその運転する普通乗用自動車(習志野五五ち一四六三号、以下「右島車」という。)を道路左側に駐車させようとして道路中央付近から左側に寄せ恒成車の直前に進出してきたため、同車の左前部フェンダー付近に恒成車が衝突し、その衝撃で恒成車は、進路前方の道路左側に訴外渡辺恒夫(以下「渡辺」という。)が駐車させていた普通乗用自動車(千葉五七ほ八一七〇号、以下「渡辺車」という。)の右後部フェンダー付近に接触し、さらに渡辺車の前方に訴外増渕益子(以下「増渕」という。)が「駐車」させていた普通乗用自動車(習志野五六ね四三二〇号、以下「増渕車」という。)の後部バンパー付近に衝突して転倒した。

2  原告の受傷及び治療経過

原告は、本件事故により、第五頸椎脱臼骨折、胃潰瘍、頸髄損傷、褥創の傷害を負い、右事故発生日及び翌七月二二日までの二日間加瀬外科医院で入院治療を受けた後、同日船橋中央病院に転医し、それ以後現在に至るまで同病院で入院治療を継続中であるが、いまだ治癒せず、自力排尿不能、自力動作一切不能の状態にあって、回復の見込はない。右障害は自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)施行令二条別表後遺障害別等級表第一級三号に該当する。

3  責任原因

(一) 増渕は、増渕車を所有しこれを自己のため運行の用に供していたものであり、かつ、本件事故は右増渕車の運行によって発生したものであるから、増渕は、自賠法三条の規定に基づき本件事故により原告に生じた損害を賠償すべき責任を負う。

(二) 被告は、増渕との間で、増渕車につき、増渕を被保険車とし、限度額を金二〇〇〇万円、本件事故発生日を保険期間内とする自動車損害賠償責任保険(以下「自賠責保険」という。)契約を締結しているから、自賠法一六条一項の規定に基づき損害賠償額の支払義務を負う。

4  損害

(一) 介護費用 約金七五四〇万円

原告(昭和三八年一一月一六日生)は、前記症状に照らし本件事故発生の日から平均余命である七五歳までの間、一日当り金四〇〇〇円の介護費用を必要とするから、その合計額は約金七五四〇万円となる。

(二) 逸失利益 約金七〇〇〇万円

原告は、月額約金二一万円の収入を得られた筈であり、六七歳まで就労可能であったところ、本件事故により労働能力を一〇〇パーセント喪失したから、ホフマン式計算法により年五分の割合の中間利息を控除して逸失利益の現価を算出すると、その合計額は約金七〇〇〇万円となる。

(三) 慰藉料 金一億三六八〇万円

(1) 治療期間に対する分 金一億二一八〇万円

原告は、前記症状からして終生入院治療を受けることを余儀なくされたが、一年間の入院慰藉料としては金二一〇万円が相当であり、これに原告の平均余命年数五八を乗じると、その合計は金一億二一八〇万円となる。

(2) 後遺症に対する分 金一五〇〇万円

(四) 以上を合計すると、原告の損害額は約金二億八二二〇万円となる。

5  よって、原告は、被告に対し、右自賠責保険の限度額である金二〇〇〇万円及びこれに対する被告に請求書が送達された日の翌日である昭和五七年五月九日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否及び反論

1  請求原因1の事実中、冒頭及び(一)ないし(三)の事実は認める。同1の(四)の事実中、右島が右島車を道路中央付近から左側へ寄せ恒成車の直前に進出してきたこと、増渕車が「駐車」中であったことは否認し、その余は認める。

2  同2の事実は不知。

3  同3の(一)の事実は否認し、その主張は争う。すなわち、本件事故は、恒成車が、その進路右前方の中央線付近に斜めに停止中の右島車の左前部フェンダー付近に後方より時速約六〇キロメートルで衝突したためハンドル操作の自由を失ない、前方道路左端に駐車していた渡辺車の右後部フェンダー付近に接触し、さらにハンドル操作の自由を失なったまま進行して、渡辺車の前方道路左端に「停車」していた増渕車の後部バンパー付近に追突して転倒したものである。右のように、恒成車と渡辺車及び増渕車との接触、衝突は、もっぱらハンドル操作の自由を失なった恒成車の運行に起因するものであって、渡辺車及び増渕車は恒成車の前方に時間的、空間的に存在していたという事実関係があるにすぎない。したがって、渡辺車及び増渕車が駐車もしくは停車していたことは本件事故発生の原因ではなく、渡辺車及び増渕車の運行と本件事故との間には因果関係がない。

同3の(二)の事実中、原告主張の自賠責保険契約が締結されている事実は認めるが、その主張は争う。

4  同4の事実はいずれも不知。

5  同5の主張は争う。

三  抗弁

1(一)  本件事故は、前記のとおり、恒成車が、その進路右前方の中央線付近に斜めに停止中の右島車と同車の左前方道路左側に駐車していた渡辺車との間を通過しようとして、まず右島車の左前部フェンダー付近に衝突し、ハンドル操作の自由を失なって、前方道路左端に駐車していた渡辺車の右後部フェンダー付近に接触し、さらにハンドル操作の自由を失なったまま進行して渡辺車の前方に「停車」中の増渕車の後部バンパー付近に追突して転倒したものである。

(二) したがって、本件事故は、恒成車、右島車及び渡辺車の一方的な過失によって発生したものであって、増渕には増渕車の運行について過失がなく、また増渕車には構造上の欠陥も機能の障害もなかったから、仮に増渕が増渕車の運行供用者であったとしても、同人は自賠法三条但書により免責され、結局被告にも責任がない。

2  なお、仮に増渕において増渕車を駐車禁止地域に駐停車させていた違法、過失があるとしても、恒成車と増渕車との衝突は、もっぱらハンドル操作の自由を失なった恒成車の運行に起因するものであるから、増渕の右違法、過失と本件事故との間には因果関係がない。

3  原告は、本件事故による損害のてん補として、右島車の加入する自賠責保険の保険者である訴外大正海上火災保険株式会社から傷害に対する分として金一二〇万円、後遺障害に対する分として金二〇〇〇万円、渡辺車が加入する自賠責保険の保険者である訴外太陽火災海上保険株式会社から傷害に対する分として金一二〇万円、後遺障害に対する分として金一七〇一万円の各支払を受けた。

四  抗弁に対する認否及び反論

1(一)  抗弁1の(一)の事実中、右島車が停止中であったこと、恒成車が渡辺車と接触後ハンドル操作の自由を失なった状態で進行して増渕車と衝突したこと、増渕車が「停車」中であったことは否認し、その余は認める。

(二) 同1の(二)の事実は否認し、増渕及び被告に責任がないとの主張は争う。

(三) 被告の免責の主張は理由がない。すなわち、恒成車は、進路前方中央線付近から右島車が左方に寄り恒成車の直前に進出してきたためこれを避けることができずに同車と衝突し、ハンドル操作の自由を失なって渡辺車に接触したものの、体勢を立て直して前進しようとした矢先、「駐車」中の増渕車が進路を妨害したため同車との衝突を避けることができなかったものであり、増渕には、駐車禁止地域に指定され車両の交通量も多い本件事故現場道路に増渕車を違法に駐車させたうえ、右駐車の際、夜間であるにもかかわらず、駐車燈を点燈せず(道路交通法五二条一項、同法施行令一八条二項違反)、ブレーキをかけていなかった過失がある。また、増渕車に機能上の欠陥があり、本件事故の際ブレーキが作動しなかった。

2  同2の事実は否認する。

3  同3の事実中、原告が大正海上火災保険株式会社から傷害に対する分として金一二〇万円の支払を受けたことは否認し、その余のてん補額は認める。右金一二〇万円は、同会社から右島車加入のいわゆる任意保険の保険者である訴外日産火災海上保険株式会社に対して支払われたものである。

第三証拠《省略》

理由

一  請求原因1(事故の発生)の冒頭、(一)(本件事故発生の日時)、(二)(場所)、(三)(現場の状況)の各事実及び同1の(四)(事故の態様)の事実中、右島車が左に寄って恒成車の直前に進出してきたこと、増渕車が「駐車」中であったことを除くその余の事実は、いずれも当事者間に争いがない。

二  《証拠省略》によれば、増渕が増渕車の所有者であることが認められ(右認定に反する証拠はない。)、他に特段の事情の認められない本件においては、同人が増渕車を自己の運行の用に供していたものと認めるのが相当である。

また、請求原因3(責任原因)の(二)の事実中、被告と増渕との間で増渕車につき原告主張のとおりの自賠責保険契約が締結されていた事実は当事者間に争いがない。

なお、被告は、恒成車は右島車との衝突によりハンドル操作の自由を失って渡辺車と接触し、さらにハンドル操作の自由を失なったまま進行して恒成車に追突したものであって、渡辺車及び増渕車はたまたま恒成車の前方に存在していたにすぎないから、渡辺車及び増渕車の運行と本件事故発生との間には因果関係がないとも主張する。しかしながら、渡辺車及び増渕車の運行性が認められ、同車に恒成車が接触・追突したという事故態様において、恒成車がハンドル操作の自由を失なった状態で進行したことが直接の原因であったとしても、このことから直ちに渡辺車及び増渕車の運行と本件事故との間の因果関係の存在を否定することはできないものというべきである。

三  免責の抗弁について

1  抗弁1の(一)の事実中、恒成車がその進路右前方の中央線付近に存在していた右島車(同車が停止中であったか否かについては争いがある。)と同車の左前方道路左側に駐車中の渡辺車との間を通過しようとして、まず右島車の左前部フェンダー付近に衝突し、ハンドル操作の自由を失なって渡辺車の右後部フェンダー付近に接触したうえ、渡辺車の前方に停止(これが道路交通法二条一項一八号にいう「駐車」にあたるか同条項一九号にいう「停車」にあたるかは争いがある。)中の増渕車の後部バンパー付近に追突して転倒したことは当事者間に争いがない(恒成車が渡辺車と接触後ハンドル操作の自由を失なった状態にあったか否かは争いがある。)。

2  そして、《証拠省略》並びに前記当事者間に争いのない事実を総合すると、

(一)  本件事故現場の道路は、千葉県八千代市村上方面(北東)から同市勝田台二丁目方面(南西)へ向かう車道幅員約一一メートルで中央線の引かれた片側一車線(片側幅員約五・五メートル)の交通量の比較的多いアスファルト舗装がされた平坦な見通しのよい直線の道路であり、車道の両側には縁石により車道と区分された幅約三・五メートルの歩道が設置されており、最高速度が時速三〇キロメートルに規制され、駐車禁止地域に指定されていること、周辺には商店が立ち並び、街路燈により夜間でも相当明るい状況にあること、本件事故は、右道路の同市村上方面から同市勝田台二丁目方面へ向かう車線(以下「本件車線」という。)上で発生したものであること、

(二)  本件事故当時、渡辺は、本件事故現場付近の商店街で買物をするため、渡辺車を本件車線の道路左側端に沿って駐車させていたが、車道側端から同車の左側面までは数十センチメートル、右側面までは約二・三メートルで、同車の駐車により本件車線のうち通行可能な幅員は約三・二メートルに制限されていたこと、

(三)  また、増渕車は、本件事故当時、渡辺車からおよそ八メートル余り前方の位置に車道側端に沿って停止していたもので、増渕車の左側面と車道側端との間隔は数十センチメートルであったこと、

(四)  一方、右島は、本件事故現場付近の喫茶店に立ち寄るため、右島車を本件車線の左端に駐車させようとし、一旦渡辺車と増渕車との間に自車を駐車させたものの、両車間の間隔が狭くて十分に車道左端に寄せることができなかったことから、あらためて渡辺車の後方に駐車位置を変えるべく、自車を一旦右斜め後方に後退させ、渡辺車の右後端から右後方約六・一メートルの中央線付近に自車右後部が対向車線上に進出した状態で斜めに一旦停止した後、対向車両の接近を認めて急いで自車を左斜め前方に約一・二メートル進行させたとき恒成車と衝突したこと、

(五)  そして、恒成は、恒成車を運転して、当時本件車線には駐停車中の車両が多かったため同車線の左側端から約三・六メートルの位置を八千代市村上方面から同市勝田台二丁目方面に向け時速約六〇キロメートルで走行して本件事故現場の手前にさしかかり、進路右前方の中央線付近に後退燈を点燈させて斜めに停止中の右島車を発見したものの、同車が道路左端に駐車しようとしていることに気付かず、同車は直進するものと軽信して同車の動静を注視することなく、漫然と同車と渡辺車の間を通過しようとそのまま進行し、同車の手前約一〇メートルの地点に至ったところ、同車が左側に寄って恒成車の直前に進出してきたため、体を横に倒して衝突を避けようとしたのみでブレーキを踏む間もなく同車左前部フェンダー付近に自車を衝突させたこと、右衝突時、右島車の左前部は、車道側端までの距離が約三・四メートル、斜め左前方に駐車中の渡辺車の右後部までの距離が約四・九メートルの位置にあり、恒成車の進行方向からみた右島車と渡辺車の間隔(すなわち恒成車の通行可能な部分)は約一・一メートルにすぎなかったこと、恒成車は、右島車との右衝突によりハンドル操作の自由を失なって左前方に斜走して渡辺車の右後部フェンダー付近に接触し、さらに渡辺車の前方に停止していた増渕車の後部中央付近に追突したこと、

(六)  本件事故現場の路面には、本件事故当日の午後七時四〇分から同日午後八時三〇分までの間に警察官によって行なわれた実況見分の際、恒成車により印象された二条の擦過痕が認められており、その一条は渡辺車の右後部フェンダーの右横付近から恒成車と増渕車との衝突地点付近に至る長さ約一一・三メートルのものであり、他の一条は右擦過痕の左側にこれとほぼ平行して渡辺車の前方から恒成車と増渕車との衝突地点付近に至る長さ約八・〇メートルのものであること、本件事故により、恒成車は、左前ウインカー、マフラー、前泥よけが破損したほか、ハンドル、ホーク、左ステップ、ブレーキペダルが曲損し、また右島車は左前フェンダー部が、渡辺車は右後部フェンダー部が、増渕車は後部バンバー部がそれぞれ凹損したこと、事故後、恒成車、原告及び恒成は増渕車の後部付近に転倒したこと、恒成は右島車と衝突後の本件事故発生に至る経過について捜査官に対し記憶がない旨供述していること、

以上の事実が認められ、前掲証拠中右認定に反する部分は叙上認定に供した各証拠に照らし直ちに措信できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

右の事実によれば、恒成には、制限速度を超える速度で進行したうえ右島車の動静に十分な注意を払わずに進行した過失があり、右島には、交通量の比較的多い本件車線上において、自車を中央線付近まで後退させて一旦停止させたうえ、左後方の安全を十分に確認することなく左斜め前方に発進させた過失があり、渡辺には、駐車禁止場所に自車を駐車させ、右島車と相俟って恒成車の進路を狭め、その進行に危険を生じさせた過失があるものと認められる。

3  そこで、増渕の責任について検討する。

(一)  まず、増渕車の駐車違反の有無について検討する。

《証拠省略》によれば、増渕は、本件事故当日、メガホンを購入するため増渕車を運転して本件事故現場に赴き、前示の場所に自車を停止させて、本件車線の側端から幅約三・五メートルの歩道を隔て増渕車の左斜め前方の位置にある「ヤスノスポーツ」店に入り、同店入口付近にあるレジスターのところで店員と応対し、メガホンを購入しようとしたものの、同店にメガホンがなかったため、直ちに他の最寄りの運動具店に行く予定で店員にその所在を聞いている時に本件事故が発生したこと、増渕が右の店員と応対していた場所と増渕車との距離は僅か数メートルであり、増渕が自車を離れてから本件事故発生までの時間は約二ないし三分間にすぎないものであったことが認められ、右認定を覆えすに足りる確かな証拠はない。

右認定の増渕と増渕車の距離、増渕が同車を離れてから本件事故発生に至るまでの時間、増渕の目的がさ程の時間を要しない単純なるメガホンの購入であって、右用件が済み次第直ちに発進する予定であったこと等の具体的事情に照らすと、増渕車は、社会通念上、いまだ道路交通法二条一項一八号所定の「継続的に停止」した状態、又は「(運転者)がその車両等を離れて直ちに運転することができない状態」に至っていないものと認めるのが相当であり、同車の停止はいわゆる「停車」にすぎないものといわざるをえない。したがって、増渕には駐車禁止違反の違法ないし過失はなかったものと認められる。

(二)  また、証人増渕益子の証言によれば、増渕は、増渕車を停車させた際、駐車燈を点燈させていなかったことが認められ、これに反する証拠はない。

しかしながら、前記認定の、本件事故の態様、特に恒成車の速度、右島車・渡辺車・増渕車の各位置関係、車間距離、前記各車両の破損の部位・程度、恒成車による擦過痕の状況等を総合すると、恒成車が渡辺車と接触したのち恒成車は、左側に転倒ないしはその直前の状態で車体の二個所を路面に擦過しつつハンドル操作の自由を失なったまま進行して増渕車に追突したものと推認することができ、右推認を左右すべき証拠はない。右事実に鑑みると、仮に増渕車が駐車燈を点燈させていたとしても、恒成車は増渕車への追突を回避することはできなかったものと推認することができる(右推認を左右すべき証拠はない。)。したがって、増渕が増渕車の駐車燈を点燈させないで停車させていたことが自動車運転上の過失にあたるとしても右過失と本件事故発生との間には因果関係がないものというべきである。

(三)  さらに、《証拠省略》によれば、増渕車は、恒成車に追突された結果その衝撃で約六・四メートル右前方に移動したことが認められ、右認定を覆えすに足りる証拠はない。

右の事実によれば、増渕は増渕車を停車させた際、サイドブレーキをかけていなかったものと推認することができ、これに反する証人増渕益子の証言は措信できず、他に右推認を覆えすに足りる証拠はない。

しかしながら、前示の本件事故の態様に照らすと、増渕車にサイドブレーキをかけていなかったことは本件事故発生の原因にあたらないことが明らかであり、また、一般に停止車両に他車が追突した場合、停止車両がサイドブレーキをかけていた場合よりサイドブレーキをかけていなかった場合の方が追突により追突車が受ける衝撃は小さいことは公知の事実であることに鑑みると、増渕車にサイドブレーキをかけていなかったことは、原告の受傷程度の拡大にも何ら影響を与えていないものと推認することができる(右推認に反する証拠はない。)。したがって、増渕が増渕車をサイドブレーキをかけずに停車させていたことに自動車運転上の過失があるとしても、右過失と本件事故の発生ないし原告の受傷との間には因果関係がないものというべきである。

(四)  そうすると、本件事故は、恒成、右島及び渡辺の一方的な過失に基づくものであって、増渕には駐車違反の過失はなく、その他本件事故の発生ないし原告の受傷との間に因果関係のある過失はなかったものと認めることができる。

また、《証拠省略》によれば、増渕車に本件事故と関係のある構造上の欠陥又は機能の障害がなかったものと認めることができ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

4  以上の次第であるから、増渕は、本件事故につき自賠法三条但書の規定により免責されるものというべく、結局被告もまた、自賠法一六条一項所定の損害賠償額の支払義務を負わないものというべきである。

したがって、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求は理由がない。

四  以上によれば、原告の本訴請求は理由がないからこれを失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 塩崎勤 裁判官 松本久 小林和明)

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